期間徒過後の救済規定における「正当な理由」

  • 2017年06月21日

 特許出願または権利化後の手続きには法令により様々な期間制限が設けられており、出願人やその代理人は、原則としてその期間を遵守することが要求されます。しかし、やむを得ない事情によりその期間を徒過してしまった場合に、例外的に期間後の手続を認める救済規定があります。

 近年、二段階の法改正で救済規定が拡充されました。平成23年法改正では、特許法条約による諸外国との調和を図るため、外国語書面出願及びPCT外国語特許出願の翻訳文提出期間等について救済措置が設けられました。平成26年法改正では、優先権主張、出願審査請求の期間等について救済措置が設けられました。詳しくは、特許庁のホームページで確認することができます。

(特許庁ホームページ)https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/kikan_gide_faq.htm

 

 法律上、これらの救済措置は、期間内に手続きをすることができなかったことについて「正当な理由」があるときに認められることになっています。特許庁のガイドラインによると、「正当な理由」に該当する可能性が高い例として、「出願人が使用する期間管理システムのプログラムに出願人が発見不可能な不備があった場合」等が挙げられています。

 

 平成29年3月7日、知財高裁は、期間徒過後の救済を特許庁が認めず出願を却下した処分に対し当該処分の取消しを求める裁判(控訴審)において、原審(東京地裁)の判決を維持し、控訴を棄却する判決をしました。

 この事件の控訴人(原審の原告)であるフランスの法人は、フランスの代理人(特許事務所)を通じて、指定国に日本を含むPCT出願(国際特許出願)をし、さらにこのPCT出願を日本へ国内移行しようとしました。日本への国内移行では、PCT出願の優先日から2年6ヶ月(30ヶ月)以内に日本語翻訳文を提出することが決められています。しかし、他の国では国内移行期間が31ヶ月の国もあるため、特許事務所の補助者が各国の期限管理リストを見間違え、日本への移行期間が31ヶ月であると勘違いしたことが原因で期間を徒過してしまったようです。期間に遅れて翻訳文が提出された本件出願に対し、特許庁は、「所定の期間内に手続をすることができなかったことについて正当な理由があるとはいえない」として出願を却下しました。それを不服とした出願人が特許庁長官を被告として訴えを提起しました。

 原審の東京地裁は、「『正当な理由』といえるためには、少なくとも、出願人あるいはその代理人において、手続上の過誤を未然に防ぐための十分な体制を構築するなど、状況に応じて必要とされるしかるべき相当な措置を講じていたにもかかわらず、特殊な例外的事情により偶発的に過誤が発生したなどの理由によって期間を徒過するに至ったことを要するというべきであり、・・・」との解釈を示した上で、「本件においては、必要とされるしかるべき相当な措置を講じていたにもかかわらず特殊な例外的事情により偶発的に過誤が発生したものと認めることはできない」と判断し、原告の請求を棄却しました(平成28年9月9日判決)。そして、控訴審の知財高裁においても、原判決は相当であるとして控訴を棄却しました。

 

 なお、原審において原告が「欧米では事務員による書類管理のミスについて回復が肯定された事例がある」と主張していることを鑑みると、本件には、いわゆる日本人的な感覚だけでは判断しきれない国際的な視点での議論が含まれるようにも思われます。しかし、救済を過度に認めることにより、正直者がバカを見るような状況に陥ってしまうのは好ましくありません。言うまでもなく、何事も期間に間に合うように早めに対応するに越したことはないと思います。(コナン)

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